
Doctor Interview
術後のリハビリや
療養も含めた継続的ケアを重視


Doctor Interview
術後のリハビリや
療養も含めた継続的ケアを重視
益田市で地域に根ざした医療を実践します。
Interview –祖母の影響で医師の道へ
私は山口県下関市で生まれ育ち、現在48歳になります。小学校から高校まで地元の学校に通い、その後1年間の浪人生活を経て、愛知医科大学に進学しました。
医師を目指したきっかけは、同居していた祖母の影響が大きかったように思います。祖母は小児科の勤務医で、とても厳しく、私にとっては親以上に学びに対して厳しい存在でした。そんな祖母の働く姿を間近で見て育ったことが、自然と「医師」という職業を意識するきっかけになったのだと思います。
大学に入ってからも、最初ははっきりとした専門の希望があったわけではありませんでした。ただ、「薬で治す」よりも「手術で治す」ことに魅力を感じるようになり、次第に外科系、最終的に整形外科の分野に関心を持つようになりました。
今振り返ると、医師としてのスタートは、祖母の背中を追うようなものでしたが、その道のなかで少しずつ自分自身の意志と興味を見つけてきたように思います。

Interview –整形外科医としての歩み
大学を卒業後はそのまま地元・山口に戻り、山口大学の整形外科に入局しました。山口大学整形外科に入局後、すぐに関連病院の玉造厚生年金病院(現・玉造病院)に赴任しました。経験の浅いまま外来を任され、関節内注射など初めての手技に戸惑いながらも、現場で学びを重ねました。その後は山口県立総合医療センターで外傷中心の診療に従事。忙しさと厳しい指導のなかで、救急や手術の現場を経験しながら技術と判断力を養いました。
その後は麻酔科での研修や、山口労災病院、徳山中央病院など複数の関連病院を経て、2015年から現在の益田地域医療センター医師会病院に勤務しています。
Interview –術後の療養やリハビリなど、継続的なケアを担う
これまで急性期・慢性期のどちらの現場も経験してきましたが、益田地域医療センター医師会病院では、その中間のような、少し特徴のある患者さんが多くいらっしゃいます。整形外科として扱う疾患の中心は、高齢の方の骨折や脊椎圧迫骨折、関節の変性疾患などです。手術を行うこともありますが、いわゆる急性期病院のように、バリバリと外傷をさばいていくというよりは、手術の後にリハビリを必要とする方や、自宅での生活が困難な高齢者の療養的な入院が多いのが実情です。
外傷の中でも比較的軽度なケースや、手術や入院の対象にはならないものの自宅での生活に不安がある患者さんが、当院に紹介されることが増えています。益田赤十字病院のような高度急性期病院と連携しながら、当院ではその後の療養やリハビリを含めた継続的なケアを担う役割を果たしています。


Interview –益田地域の中での中核的な役割
私は当院に10年ほど勤務していますが、外来も長く担当してきたことで、患者さんとの関係性も自然と深まってきました。紹介で初めて来られる方もいれば、何度も通ってくださる方、手術後のフォローアップで定期的に通院される方など、様々です。長年通ってくださる患者さんからのご紹介や口コミで来られる方も増えていて、「この病院は落ち着いていて安心できる」と言っていただくこともあります。
“かかりつけ”のような立場で通ってくださる患者さんもいらっしゃる一方で、総合病院のような手術やリハビリにも対応できる体制を整えているという意味では、地域の中で中核的な役割を果たしていると感じています。整形外科の専門医として、必要に応じて手術を行い、その後のリハビリや生活支援まで見据えて関わることができるのは、この病院ならではの特徴だと思います。
Interview –骨折リエゾンチームを通じた地域での予防
以前、医師会だよりで「骨折リエゾンチーム(FLS)」の紹介記事を執筆しました。記事の中では、大腿骨近位部骨折の怖さについて触れています。こうした骨折は、たった一度の転倒がきっかけで、その後の生活の質や生命予後に大きく関わることがわかっています。たとえば、1年後に歩行不能になる方が約40%、日常生活の一部でも自立できなくなる方は約60%とされ、さらに5年生存率はがんと同程度ともいわれています。数字だけ見ると驚かれるかもしれませんが、それだけ重要なテーマだということを、ぜひ多くの方に知っていただきたいと思っています。
このような背景もあり、現在は益田赤十字病院の整形外科の先生と協力しながら、益田市内で高齢者の骨折予防や骨粗しょう症治療を広げていくための取り組みを行っています。定期的に情報共有の場を設け、地域全体で予防と治療に取り組む体制づくりを進めています。
実は私自身、以前はどちらかというと手術が中心で、骨粗しょう症の治療については開業医の先生にお任せすることが多かったのですが、今は意識を大きく変えています。骨粗しょう症は「骨がもろくなるだけの病気」と思われがちですが、その先にある骨折や寝たきりといったリスクを防ぐためにも、しっかりと治療していくことが大切だと実感しています。
もちろん、治療には飲み薬や注射など、継続的な対応が必要になりますし、「そこまで大げさにしたくない」「薬をあまり飲みたくない」とおっしゃる患者さんも少なくありません。患者さんにはまず正しい情報を丁寧にお伝えしたうえで、最終的にはご本人の意思を尊重するようにしています。無理に治療を押しつけるのではなく、理解と納得を得たうえで一緒に進めていくことが大切だと思っています。


Interview –リハビリ・療養を地域で支える
益田市内では、益田赤十字病院の整形外科の先生方や、近隣の開業医の先生方と定期的に集まり、患者さんの治療や情報共有を行っています。コロナ禍で一時的に中断していた時期もありましたが、現在は2〜3ヶ月に一度のペースで集まりを再開しています。お互いに忙しいなか時間をつくって集まり、紹介された患者さんの経過や治療方針について話し合ったり、情報交換をしたりしています。
また、高齢者の骨折予防や再発防止に向けた「骨折リエゾンサービス(FLS)」に関する会議も、半年に一度ほどの頻度で行われています。こうした取り組みを通じて、患者さんがどの医療機関にかかっても切れ目のない医療が受けられるように、地域全体で協力しています。
整形外科の治療は、手術や注射だけで終わるものではありません。リハビリやその後の生活の質をどう保っていくかがとても重要になります。そのため、病院同士、そして地域の先生方との連携がスムーズであることが、患者さんにとっても安心して治療を受けられる大きな支えになると感じています。

Interview –手術に限らず、相談から専門医紹介まで柔軟に対応
「整形外科=手術」というイメージを持たれている方も多いかもしれませんが、私自身は、必ずしも手術ありきで治療を進める必要はないと考えています。ですので、「まずは話だけ聞いてみたい」「この痛みは整形外科に相談していいのかな?」という段階でも、気軽に受診していただければと思います。
当院で対応できる内容については、しっかりと時間をかけてお話を伺いながら、必要に応じた治療を行っています。一方で、当院では対応が難しい手術や専門的な治療が必要と判断した場合は、無理に当院で完結させようとはせず、適切な専門の医師・医療機関をご紹介しています。


Interview –丁寧な診療と地域医療に取り組む
最後に、益田市での暮らしについて少し触れさせていただきます。私自身、このまちの「こぢんまりとした」落ち着いた雰囲気がとても気に入っています。自然が豊かで、四季の移ろいを日々の生活の中で感じられますし、歴史ある土地ならではの奥深さも魅力のひとつです。都会のような喧騒はありませんが、そのぶん地域の人との距離が近く、あたたかな人間関係のなかで暮らしていけることに、日々安心感を覚えています。
そうした穏やかな環境の中で、患者さん一人ひとりと丁寧に向き合いながら、整形外科医として地域医療に関われることにやりがいを感じています。これからも、「まずは相談だけでも」という気持ちで、気軽に受診していただけるような存在でありたいと思っています。



笈川 哲也整形外科
- 日本整形外科学会 整形外科専門医
- 2002年 愛知医科大学 医学部 卒業
- 2002年 山口大学医学部附属病院 整形外科 入局
- 2002年 玉造病院
- 2005年 山口県立総合医療センター
- 2008年 山口大学医学部附属病院
- 2008年 山口労災病院
- 2011年 山口大学医学部附属病院
- 2013年 徳山中央病院
- 2015年 益田地域医療センター医師会病院 整形外科