歯の健康づくり
よい歯をつくりよい歯を守るためのポイントを、生涯のステージごとの歯の特徴とともに掲載してあります。なお、本文は「しまね8020運動推進協議会」による「8020運動推進マニュアル」の一部を、一般の方にわかりやすい用語に書き換えて紹介させていただきました。
わからない点、不明な点は「かかりつけ歯科医」にご相談ください。
目次:
胎児期
乳児期
幼児期(1~3歳)
幼児期(4~5歳)
小学生
中学生・高校生
成人期
妊産婦
高齢者
寝たきり老人
心身障害児(者)
胎児期
●この時期での歯に関わる特徴
・乳歯歯胚(歯を作る組織)の形成期にあたります。初期に基礎部分が形成され、中期に入り石灰化が始まります。(図1)
図1:歯列の発育図(Schour, Masseler, 1944 による)-出生時-
出生児には、乳歯はあごの中で、すでにつくられています。
●ポイント
【初期】
・歯胚の基礎部分が形成されるので、良質のたんぱく質を摂取しましょう。
【中・後期】
・乳歯の石灰化が始まるので、カルシウム、リン等の無機質、ビタミンA、ビタミンDを摂取しましょう。
乳児期
●この時期での歯に関わる特徴
・一般的に6か月前後より乳歯が生えますが、3~4か月頃より生え始めることもあります。1歳までに2~8本の乳歯が生えてきます。(図2)
図2:歯列の発育図(Schour, Masseler, 1944 による)-出生6か月-
●ポイント
【乳歯が生える前の時期】
・乳児の口腔の清潔を保ち、保護者自身も口腔衛生に対する知識を向上させましょう。
・萌出前の歯口清掃は、ガーゼ、綿花などで行いますが、乳児の口腔粘膜を傷つけたり、哺乳障害等を起こしたり、口内炎など口腔粘膜の疾患を起こすことがありますので注意してください。
【乳歯が生える途中の時期】
・乳児は自分で歯口清掃が行えないので、保護者が萌出直後の歯や周囲の粘膜をガーゼなどで清掃してください。
【離乳食の形態】
・いつまでもやわらかすぎたり、固すぎて乳児が丸のみをしないよう咀嚼の発達に対応した離乳食が与えられるよう注意しましょう。また、離乳食後は番茶を与える等口腔内の清潔を保つよう気をつけて下さい。
幼児期(1~3歳)
●この時期での歯科に関わる特徴
【1歳6か月】
・乳臼歯が生え始め、永久歯の石灰化が進んできます。(図3)
図3:歯列の発育図(Schour, Masseler, 1944 による)-1歳6か月
1歳6か月頃は、乳臼歯の萌出が始まり永久歯の石灰化が進んでいます
【3歳】
・3歳頃は乳歯が完全に生え、乳歯の歯ならびが完成します。(図4)
図4:歯列の発育図(Schour, Masseler, 1944 による)-3歳-
3歳頃は乳歯の萌出が完了し、乳歯の歯ならびが完成します。
●ポイント
【1~2歳】
・上の前歯がむし歯にならないように注意しましょう(歯みがき、おやつのとり方)。
【2~3歳】
・乳臼歯の歯と歯のあいだがむし歯にならないように注意しましょう(歯みがき、おやつのとり方、フッ化物の応用)。
・乳歯のかみあわせが決まってくる時期なので、不正咬合と診断された乳児の保護者は、かかりつけ歯科医とよく相談してください。
【歯みがき習慣の徹底】
・幼児自らが歯みがき習慣を身に付けることができるよう、保護者や家族が一緒にブラッシングすることが必要です。1日1回保護者による仕上げみがきを行い、特に上の前歯の唇側を重点的に行います。
【定期健診】
・定期的な健診等の受診を勧めます。また、必要に応じたフッ化物の応用についてかかりつけ歯科医と相談して下さい。
【前歯のむし歯の早期治療】
・上の前歯にむし歯ができはじめる幼児が多くなります。乳児のむし歯は永久歯のむし歯に比較して進行がはやく、重症化するので、早期にきちんと処置を行うことが大切です。
・下の前歯、また上の前歯の多数にわたってむし歯がある幼児は、むし歯に対する抵抗性が特に弱いので、歯みがきや生活指導等についての個別の指導が必要と思われます。市町村での歯科検診等を利用して指導を受けてください。
【生活習慣の確立】
・規則正しい食事とおやつのとり方についても指導を受けてください。
幼児期(4~5歳)
●この時期での歯に関わる特徴
・4~5歳頃は第1大臼歯(6歳臼歯といわれる奥歯)が生え始め、乳歯と永久歯が交換し始め乳歯と永久歯が混合した歯ならびの時期に入ります。(図5)
図5:>歯列の発育図(Schour, Masseler, 1944 による)-4~5歳-
4~5歳頃は第1大臼歯の萌出が始まり、乳歯と永久歯が交換し始め乳歯と永久歯の混合歯列期に入ります。
●ポイント
【歯口清掃】
・基本的な歯磨き、フロッシング(糸ようじの使用)、うがい等の歯口清掃の習慣が身につくように声かけをしましょう。
【食生活の改善】
・心身の発達発育を促し、生活習慣を確立するため規則正しい食生活を身につけることが大切です。また、顎の発育の面からもよくかんで食べる習慣を身につけましょう。
【予防処置の実施】
・予防の必要な幼児に対して、フッ化物による予防処置を勧めます。また、フッ素の入った歯みがき粉など、むし歯予防に有効な方法をかかりつけ歯科医と相談して実践しましょう。
【健診と治療】
・保育所や幼稚園での定期歯科健診の結果、むし歯があったら早期に治療を受けましょう。
・乳歯のむし歯は進行がはやく、進行した重症むし歯は治療も困難であり、永久歯の歯並びにも影響があります。
小学生
●この時期の歯に関わる特徴
【低学年】(図6)
・上下の中切歯(真ん中の大人の歯)が生え始めます。
・生え始めの頃は左右の歯と歯の問にすき間が空いていることが多くみられます。
・第1大臼歯(6歳臼歯といわれる奥歯)が上下左右4本咬み合います。また、むし歯になりやすい歯です。
図6:歯列の発育図(Schour, Masseler, 1944 による)-6歳(±9か月)-
【中学年】(図7)
・乳臼歯が抜けて、第1小臼歯(前から4番目の歯)、第2小臼歯(前から5番目の歯)が生え始めます。
・不正咬合(咬み合わせの異常)等が明らかになってきます。
・歯肉炎にかかる児童が増えてきます。
・上の前歯の隣接面にむし歯ができやすい時期です。
図7:歯列の発育図(Schour, Masseler, 1944 による)-8歳(±9か月)-
【高学年】(図8)
・前歯が生えそろい、犬歯が生え始めます。
・12歳前後に第2大臼歯(前から7番目の歯)が歯列の一番奥に生え始めます。
・歯周疾患の初期段階である歯肉の炎症が発生します。
・不正咬合が目立つようになります。
・第2大臼歯は生えている途中からむし歯になりやすい歯です。
図8:歯列の発育図(Schour, Masseler, 1944 による)-10歳(±9か月)-
●ポイント
・発達段階に応じた指導を受けることが大切です。
・歯科疾患を予防するためには児童自らが自分の歯のみがき残しがわかり、汚れを落とすみがき方を工夫し、発見できるよう指導を受けましょう。
中学生・高校生
●この時期での歯に関わる特徴
【中学生】(図9)
・永久歯列がほぼ完成しますが、歯肉炎にかかる生徒が多くなります。
・永久歯のむし歯が多発しやすい時期です。
図9:歯列の発育図(Schour, Masseler, 1944 による)-12歳(±9か月)-
【高校生】(図10)
・顎の骨も発育して、大人の顔つきになってきます。
・むし歯が放置されやすく歯周疾患が発生しやすくなります。
・第3大臼歯(親知らず)が生え始める生徒もでてきます。
図10:歯列の発育図(Schour, Masseler, 1944 による)-15歳(±9か月)-
●ポイント
・歯肉炎が発生しやすい時期であり、生活が不規則になりがちですので自分にあった正しい歯みがき(歯ぐきのマッサージと歯ぐきのセルフチェックを含む)と食生活習慣が維持できるように指導を受けましょう。
成人期
●この時期での歯に関わる特徴
・20~40歳の青年期は永久歯のむし歯、歯周疾患の増加期です。また、第3大臼歯(親知らず)の萌出障害やそれらに起因する咀嚼障害、不正咬合、顎関節症や口腔心身症などの増加が見られます。
・口腔内の状況は個体特異性(歯並び、唾液の質等)がみられます。
●ポイント
・口腔保健への関心を自ら高め、むし歯・歯周疾患の予防、治療に積極的に取り組むために歯の衛生週間等における歯科関係の催しに参加しましょう。
・老人保健法に基づく保健事業の健康教育・健康相談等で、歯と歯ぐきのブラッシングを実行できるように具体的な指導を受けましょう。
・かかりつけ歯科医による定期歯科検診を受診し、早期治療を心がけましょう。
妊産婦
●歯科に関わる特徴
・ホルモンバランスの変化により、むし歯と歯肉炎が発生しやすいといわれています。
・また、つわり等により口腔内の清掃状況が悪くなりやすい環境下にあります。
●ポイント
・妊婦教室での集団指導にあわせ、口腔状況に応じた歯みがきできるよう指導を受けることが必要です。
・歯科検診、歯科治療を5~7か月の安定期に受診して下さい。(結果を母子保健手帳に記入してもらいましょう)
・妊婦教室の初期・中期の指導内容には胎児のよい歯を形成するための栄養に関すること、後期には乳歯の萌出時期の知識及び口腔内の清掃方法等の指導を受けましょう。
高齢者
●歯科に関わる特徴
・多くのむし歯や歯周疾患を有し、受診の必要性はありながら加齢とともに歯科治療の受診率は低下傾向にあります。
・歯の喪失や唾液の分泌低下による咀嚼機能の低下、補綴物(入れ歯等)の不調和、口臭が増大します。
・歯の喪失本数が多くなり、総義歯を使用する者が多くなります。
●ポイント
・QOL(生活の質)の向上のために定期歯科検診の受診と早期治療に心がけましょう。
・義歯が不具合であると、食品摂取、発音等に支障をきたすため、適切な義歯の清掃及び管理についての指導を受けましょう。
・口臭の原因となる義歯の清掃についての指導を受けましょう。
*義歯は毎食後清掃し、就寝時にははずして洗浄液中に浸しておきましょう。義歯をはずしたときは紛失しないためにも専用の容器を用意しておきましょう。
寝たきり老人
●歯に関わる特徴
・運動障害により口の中の清掃が困難な状況下にあります。
・無歯顎者が多く、義歯の装着が必要ですが装着してい方も見受けられます。
●ポイント
・歯口清掃は歯科疾患の予防に大切なことです。また、歯口清掃は誤嚥性肺炎の予防のために効果があるといわれています。かかりつけ歯科医と相談した上で適切な清掃方法の指導を受けましょう。
・自分で歯みがきができる人にはできるだけ自分で歯をみがくようにしましょう。
心身障害児(者)
●歯に関わる特徴
・心身障害児(者)自身の歯口清掃不十分又は歯口清掃不能のためむし歯や歯肉炎の多発がみられます。
・むし歯の多発による歯間空隙の喪失や口腔周囲筋や舌の運動性の失調等により歯列不正が多くみられます。
・口腔の清掃不全や食生活の偏り等によって唾液の粘稠化が起こりやすいといわれています。
・口腔の清掃不全や唾液の粘稠化により、強い口臭がみられます。
・周産期や先天性異常による障害児には歯の数や歯の形態異常がみられます。
●ポイント
・心身障害児(者)は、直接、関節的に運動機能に制限をうけていることも多く、また歯口清掃の必要性を理解することの出来ない方もおられます。保護者や施設の養護者が歯口清掃の必要性を認識するとともに、個々の障害児(者)に合った歯の清掃法の具体的な実施方法の指導を受ける必要があります。
・心身障害児(者)のもっている背景を良く理解し、出来るだけ早い時期から歯口清掃がおこなわれるよう、周囲のすべての人たちは努力しましょう。
協力:益田美鹿歯科医師会