TQM活動のあゆみ
はじめに
益田市は、(人口5万)山陰は島根県の最も西に位置し山陰の小京都と言われる津和野町と近隣の市である。歌人「柿本人麿」や画聖「雪舟」ゆかりの地でもある。益田地域医療センター医師会病院(以下,当院)は市内の高台にあり病室から日本海が望め漁火も見える自然豊かな環境の場所にある。
当院は、高度専門医療サービスの提供並びに益田圏域の無医地区解消のためへき地中核病院の承認を受けての、へき地医療サービスの充実また高齢化に対応すべく老人デイケア施設の整備、市内の小・中・高校の健診から一般健診・人間ドックに対する保健予防体制・システムの整備を計って保健予防、診療、リハビリテーションの三位一体の一貫した地域医療サービスを提供することを念願し、「新たな時代に対応した益田地域独自の医療サービス体制を創造したい」と社)益田市美濃郡医師会の地域医療に対する情熱によって昭和61年5月1日に開設された。一般病床160床を中心に老人保健施設(99床)を平成8年に併設、訪問看護ステーションの開設、平成12年療養病棟(医療保険44床、介護保険44床)の増設等々と年々拡大されて地域医療支援病院の承認も全国で7番目、中・四国地方では最初に受けたところである。
当院は、医師会立の開放型病院という特殊性を有し患者さんはもとより会員の先生からも信頼され選ばれる病院でなければなりません。そこで『信頼と心のふれあいのある病院』をビジョンに揚げています。そのビジョンに従い全員参加による「患者さん第一主義」で、ムリ・ムダ・ムラの無いよう常に問題意識を持って経営感覚を養うことを目指してQC活動をスタートしました。この活動は経営改善のみならず、次工程はお客様の考え方で部署間の風通しを良くしてセクショナリズムを打破し、さらに自然に向上心が養われ接遇も改善されて職員の人材育成に於いても非常に有効であるQC(TQM)活動のあゆみを述べる。
QCサークル活動導入のきっかけ
当院は、開設当初の様々な体制不備が尾を引き開設3年目の昭和63年経営が非常にきびしい時期を迎えた。各部署に多くの問題点が有りながら問題を避けて通ったり、問題を問題と感じなくなったり悪いのは「人の所為(せい)」にする風潮が増してきている状態であった。
この様な状況下で医療経営雑誌に〈病院の赤字解消をはかる一環としてQC活動を導入した〉と紹介された記事がきっかけで検討の結果昭和63年4月に導入が決定された。
全員参加で「患者さんに選ばれる病院づくり」を合い言葉に活気ある病院づくり、働き甲斐のある職場づくりのため、先駆的に実施されていた大分市医師会立アルメイダ病院(大分市)・マツダ(株)マツダ病院(広島市)に再三ご指導を仰ぎ、次の4つの方針に沿って開始された。
① 個人の自主性を尊重し、無限の可能性を引き出し、集団としての全能発揮に努め、生きがいのある明るい職場を作る。
② 全員参加により医療の質的向上をはかるため、自己啓発・相互啓発に努める。
③ 患者さん中心の医療の実践などにより社会福祉に貢献する。
④ 看護・医療技術・事務及び現業業務の実施にあたり、常に問題意識を持ち改善のために創意工夫する。
「医師会TQM活動運用の概要」
医師会組織の概要は下の図1のようになっております。総会で運営の基本理念を制定されTQM担当理事によりTQM活動推進方針が出され、院長並びに療養病棟施設長・老人保健施設長から年度病院・施設方針(年度目標)が提示され、そして事務長・診療部長・看護部長よりTQM部門方針(上司方針)が提示される、これを踏まえ課(科)長、師長または主任が上司方針を出しサークルメンバーは方針に添ったテーマを選定しテーマに対するサークル目標を掲げ方針管理の元に全員参加による活動を行う。
活動期の分類
QCサークル活動導入から現在までを分類すると【導入期】【推進期】【発展期】【定着期】の4期に分けられる。
【導入期】昭和63年5月~平成3年4月
QC活動導入に当り管理職で構成の推進委員(9名)が外部講師の指導を受け、その推進委員が中心となって各部署のサークル結成と活動の支援を行い昭和63年10月に3ヶ月間の活動で第1回QC発表大会を院内全部署15サークルで開催。その後、年2回、5月と11月に発表大会を定期に行ったが、第4回頃からQCがわからない、難しい、忙しいなどの理由で活動を停止したサークルやサークルの統合などがあり11サークルに減ってしまった。そこで、推進委員を2名増員し各サークル活動の支援強化を図り、また外部講師による勉強会やサークルの個別指導を行い、更に他の病院の発表大会や研修会に数多く参加した。そして院内全職員がQCサークル活動を”業務の一環”として行う病院方針の元に活動を停止していたサークルも再活動する事になった。
【推進期】平成3年5月~平成5年5月
推進期は第6回から10回発表大会までの時期で、発表大会に他の病院からゲスト発表をして項き全職員が他の病院の活動事例を聴講し交流を図った。
活動の充実化を図るため推進委員を6名増員し17名となり発表大会でサークルの講評を推進委員が行う事を開始した。
少しづつではあるが内容も向上し院外の発表大会に参加し第2908回業種別部門別発表大会(広島)で地区支部長金賞を受賞しサークルメンバーは自分達でもやれば出来ると自信を得、他のサークルにも励みとなりこれを契機に各サークルの活動が活発になった。
また平成3年9月に日科技連QCサークル本部に登録。
【発展期】平成5年6月~平成8年8月
発展期は第11回から17回発表大会までの時期で、看護部管理職のサークルや看護助手のサークルが新たに結成し15サークルとなった。
活動を停止していた消極的なサークルも院内発表大会で優秀賞を取り院外発表大会でも受賞するなど奮起し、今では新しいQC手法を次々と取り入れ院内の模範サークルとして活躍している。
院外の発表大会や他の病院の発表大会に招かれ発表を行い交流が盛んになった。また院内発表大会の審査を外部講師の先生に頼らず推進委員による審査委員制度開始。更には自分達で勉強を行うべく、推進委員による3つの分科会(教育・支援・標準化)を設立し活動を開始した。
第17回発表大会からは、病院方針・上司方針を掲げTQMを目指した活動を始めた。
【定着期】平成8年9月~現在
定着期は第18回発表大会からで発表大会のプログラムに分科会活動報告が加わり発表大会が盛り上がった。そして第20回発表大会より併設の老人保健施設から4サークル結成し19サークルとなった。更には増設された療養病棟から2サークルが第25回発表大会でキックオフ宣言を行い、現在21サークルが第26回大会に向けて活動中である。
第25回の活動よりTQC活動を土台とし改善の結果がどのように「病院の経営プラン」の達成に関れたか、貢献できたかを重視するTQM「総合的品質経営」活動へと変更した。
また表1.院外活動状況一例のように院外に於ける発表が以前にも増して活発になった。
11年3月からQCサークル中国・四国支部山陰地区幹事会社に就任し地区に於けるQC活動のお世話を行うこととなった。
活動テーマ分類と推移
活動テーマを大きく6つのテーマ内容で分類比較すると(図2)のようになり、導入期は「能率向上」や「業務改善」に関するテーマが多く見られたが、推進期以後は「サービス向上」に関するテーマが増え定着期には「サービス向上」が48%を占めた。全期に於いても「サービス向上」が最も多く病院の業績の向上と共に職員のサービス向上に対する意識変化が伺え、TQCサークル活動により病院のサービス向上に大きな効果をもたらしている。
活動の効果
- ・サークルのメンバー同士だけでなく、他部署から現状把握や効果の確認のためアンケートやデーター取りをしなければならないので、職員相互のチームワークが良くなった。セクショナリズムを捨てお互いを思いやり、職種が違っても相手の業務を理解し、協力していこうとする気持ちが生まれてきた。
- ・できない理由をいうのではなく、どうしたら出来るかという前向きの議論をするため一人一人の能力向上の機会となり、リーダーは重責を担うことで自分自身を見つめ振り返り、リーダーシップのありかたを学習することが出来る。
- ・常に改善を計るため現状維持的な考えが改まり、新しいことを取り入れるので現場が確実に変化してゆく。新しい事を実施する時スタッフや他部署の理解を求めることは困難を伴うが、QC活動を通して改善を図ると、非常にスムーズに受け入れられる。看護部では申し送りの廃止やプライマリーナーシングの導入、カンファレンスや看護記録の充実など看護体制の改善だけでなく、ベッド稼働率のアップや医師会員の先生からの紹介患者さんの増加を図るなど、経営面でも大きな効果を上げた。
- ・問題意識を持って業務改善することにより医療事故防止に役立っている。
- ・他の病院や異業種と交流がもて考え方が広くなり,人脈もできた。
- ・達成感が味わえ、自信につながる。院内発表大会で発表者が「活動を何度止めてしまおうかと思ったが最後までやり遂げることができ今充実感でいっぱいです」と涙ながらの発表があり、会場の者ももらい泣きをしたことが有った。苦しんだ後には必ず感動があり、その感動があるから、また続ける力になって来ると思われる。
人材育成に効果があった看護助手サークルの事例
業務改善提案制度に、ある看護助手スッタフから看護助手もサークルがあれば助手業務の改善になるのではないかと提案があった。看護助手は、各看護単位ごとのサークルに入っていたため、看護婦中心に進められる活動に第三者的な関わりしか持てていない状況であった。そこで、この提案を受け第16回大会から黒衣サークルと称し参加することになった。
活動を始めるとできない理由を数々挙げ、リーダーの負担ばかり大きくなり、挙句の果てには仲間割れまで起こし、QC活動の継続どころか退職したいと申し出る者も出てきた。しかし、初めての活動は完結させたいというリーダーの努力もあり、何とか迎えた院内発表大会。そこで、優秀賞に選ばれ、病院代表として参加した山陰地区大会でも優秀賞になり、その後の中国四国大会で金賞を受賞するなど、もう後には引けない状況になった。メンバーでお互いの思いを話し合いながら、わからないもの同士協力して勉強していこうと確認しあい、今も活動を継続している。
QC活動に取り組む以前の彼女らは、何の資格も持たず平均年齢45歳で、看護婦に指示されるままに業務をこなしていればよい状態であり、文章を書くこともパソコンの操作も、ましてや多くの人の前で発表することなど到底考えられなかった。しかし、今では、自分達の仕事を自分達の手で改善していくプロ意識を持ち、サークルの名前のとおり、患者さんや看護婦を陰で支えるための感動的なテーマに取り組み、堂々と院内外の発表大会へ臨んでいる。
活動継続の要因
① QCサークル活動は業務の一環として位置づけ、トップダウンによる方針管理。
② サークルメンバーが自分達に出来る自主的な活動を行い、対外発表大会に積極的に発表参加し情報収集を行なってレベルの向上を図っている。
③ 外部講師による研修並びに隔月のサークル個別指導による支援。
④ 推進委員による分科会活動でQC手法などの勉強会や隔月の定期サークル個別相談等による支援。
おわりに
山陰の小さな町の小さな病院の職員たちが、一生懸命に取り組んだ改善活動が、継続することにより少しずつ成果が現れ、医師会病院の機能は無限に広がって行くと言われるように、一歩一歩前進しており、まさに「継続は力なり」である。
QC活動は結果よりプロセスが大事と言われるが、毎回の発表大会では活動期間中の苦労話が聞かれる、あまりの苦しさでいっそのこと病院を辞めてしまいたいと思った職員もいたことゝ思う、それを乗り越えて初めて発表後の達成感が味わえ、本人は気付かないかも知れないが知らず知らずの内に人間的にも成長して行っている。
常に「昨日(きのう)より今日(きょう)、今日(きょう)より明日(あす)、明日(あす)より明後日(あさって)」と向上心を持たせTQM活動を継続させて行く上で、TQM活動が発表のための形だけのものにならないように、TQM活動の目的を全員が良く理解し取り組み、「改善は永遠なり」と言われるように、これで良いと言う終点は無く、そこに患者さんが居られる限りTQM活動により改善し続けて行く必要があると思う。